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東京地方裁判所 平成12年(ワ)12251号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、43万9,536円及びこれに対する平成9年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、原告に対し、47万1,036円及びこれに対する平成9年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告に対し、平成8年11月20日、金400万円を、利息につき年28.9パーセント、最終弁済期限につき平成18年11月30日と定めて貸し渡した。

2  原告は、被告に対し、右1の契約に基づいて、別紙の「支払額」欄記載の金員を同欄に対応する「年月日」欄記載の年月日(西暦により表示した。)にそれぞれ弁済した。

3  ところで、被告は、利息制限法所定の年1割5分の割合による制限利率を超える約定利率による利息を原告から取り立てており、約定利率を制限利率に引き直し、超過支払部分を元本に充当して計算すると、別紙のとおりとなり、47万1,036円が過払となる。

よって、原告は、被告に対し、不当利得に基づき、利得金47万1,036円及びこれに対する利得の日の翌日である平成9年4月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認める。

三  抗弁

1  貸金業法43条1項のみなし弁済の適用

(一) 被告は、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条に基づく登録を受けた貸金業者である。

(二) 被告は、原告に対し、本件消費貸借契約締結後、遅滞なく貸金業法17条1項所定の書面である乙1号証、乙4号証及び乙12号証の各書面を交付した。なお、本件消費貸借上の利息の契約は被告が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約である。

(三) 原告は、本件消費貸借上の利息又は賠償額の予定に基づく賠償として、任意に請求原因2の弁済をした。

(四) 被告は、原告から請求原因2の弁済を受ける都度、直ちに同法18条1項所定の書面を原告に交付した。

2  弁済期前解除の解約金条項の適用

(一) 原告は、被告に対し、本件消費貸借契約の締結の際に、原告の申し出により最終弁済期限前に契約を解除する場合には、残債務の3パーセントの解約金を残債務に加算して支払う旨を約した。

(二) 本件消費貸借契約は、平成9年4月16日、原告の申し出により解除された。

3  登記費用

被告は、本件消費貸借契約につき、登記費用として6万3,000円を支出した。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1(一)の事実は認める。同(二)の事実のうち、被告が原告に対し、本件消費貸借契約締結後、乙1号証及び乙4号証の各書面を交付したことは明らかに争わないが、これらの書面が貸金業法17条1項所定の書面であることは争う。すなわち、乙1号証の書面には、法定記載事項である「債務者が負担すべき元本及び利息以外の金銭に関する事項」、「返済の方法及び返済を受ける場所」、「返済回数」及び「各回の返済期日及び返済金額」の記載が欠けており、乙4号証に「返済回数」及び「各回の返済期日及び返済金額」の記載がなされているが、貸金業法17条1項は1通の書面に法定記載事項を記載したものを交付することを義務づけているのであって、別途の書面を交付したからといって同項の書面交付義務を果たしたということはできない。同(四)の事実は否認する。

2  同2の主張は争う。

原告主張に係る解約金条項は、文言上、期限の利益を放棄して弁済期前に弁済する場合には適用されないというべきである。また、右条項は、早期に弁済すればするほど債務者の負担が増え、不合理である。さらに、被告が、金利のほかに解約金を取得することは、利息制限法、貸金業法及び出資法の脱法行為を許容することになる。

理由

一  請求原因事実については、当事者間に争いがない。

二  抗弁1について

1  被告は、本件貸付に際し乙1号証、乙4号証及び乙12号証の各書面を原告に対し交付した、これにより貸金業法17条1項所定の書面を交付したことになる旨主張しているので、まず、この点について判断する。

貸金業法17条1項が契約内容を明らかにする書面の交付を求めているのは、契約締結時に契約内容を明確にして、債務者にそれを正確に承知させ、貸付金額や弁済の充当関係等について後日の紛争の発生を防止することを目的とするものと考えられる。そして、この目的をよりよく達するためには、1通の書面に同項所定の事項のすべてが記載されている必要があるものというべく、他の書面によって記載漏れの事項を補ったり、書面外の事情をもって記載漏れの事項を補うことは、貸金業法の趣旨に適うものではない。

これを本件について見ると、被告主張に係る書面は、原告が抗弁に対する認否及び反論1において主張するとおり、そのいずれも法定記載事項に欠けるところがあるので、同法43条1項1号、17条1項にいう書面には該当しないといわざるを得ない。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、抗弁1は採用できない。

2  そうすると、原告が弁済した金員については、利息制限法所定の年1割5分の割合で利息に充当され(その額は別紙「発生利息」欄に記載のとおりである。)、それを超える部分は、当然に残元本に充当される筋合いであり、その計算関係は、別紙<略>のとおりとなる。

三  抗弁2について

被告は、原告が最終弁済期限前に契約を解除する場合には残債務の3パーセントの解約金を残債務に加算して支払う旨を約した旨主張している。

ところで、利息制限法3条は「金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は、…何らの名義をもってするを問わず、利息とみなす」旨、また、同法4条は「金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定」について、制限利率の「2倍をこえるときは、その超過部分につき無効とする」旨規定しているところである。そうすると、被告主張に係る右解約金については、それが期限の利益を放棄して弁済する場合にも支払われることとなると、右解約金は「金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭」として同法3条の利息とみなされるものというべく、また、それが期限の利益の喪失後に残債務を弁済する場合にも支払われることとなると、右解約金は同法4条の賠償額の予定とみなされるものというべきである。

以上のところからすると、被告主張に係る右解約金が、約定の利率及び賠償額の予定が利息制限法所定の利率を超えており、しかも、貸金業法43条の適用が認められない本件において授受されるとなると、利息制限法3条又は4条に抵触する結果を来すものというべく、右合意は、その限りにおいて効力を有しないものと解するを相当とする。

したがって、抗弁2も、採用できない。

四  抗弁3について

原告は、抗弁3の事実について明らかに争わない。

そして、乙2及び3号証によれば、被告は、本件消費貸借に際し原告との間で根抵当権設定契約を締結し、平成8年11月20日その旨の根抵当権設定仮登記を経たことが認められる。

ところで、右登記手続に要した費用については、利息制限法3条但書の契約締結の費用に該当するものと判断されるところ、その費用の負担に関し格別の主張が存しない本件においては、被告主張の費用の半分である3万1,500円について原告が負担すべきものと判断される。

そうすると、抗弁3は、右限度において理由がある。

五  以上の次第であるから、原告の本訴請求については、47万1,036円から原告が負担すべき登記費用3万1,500円を控除した限度で理由があるが、その余は失当である。

よって、主文のとおり判決する。

(別紙)<略>

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